中小企業の現地営業活動を支える「ツール」開発の必要性

 従来、燕三条の中小企業は、世界に向けて営業開拓を目指してきた。例えば、巨大なマーケットを有する中国では、現地代理店ネットワークを活用して相応の販売拡大を図ってきた。海外展示会イベント等を積極的に活用して、自力で商談を取りつけてきた中小企業も少なくない。

 しかし、将来にわたる企業成長のためには、今、新たにベトナム、カンボジア、ミャンマー、ラオス、バングラデシュ、スリランカといった後発国のマーケットにも関心を向けなければいけない。

 中小企業が新たな国に挑む時、ハードなビジネス環境に立ち向かえる即戦力としての途上国人材や現地ネットワーク等が必要であり、この点、ジェトロやODAを活用した政策支援はあるが、それに加えて、製品・技術力の優位性を客観的に説明できるような現地営業支援ツールも必要ではないだろうか。

 また、一般に中小企業内部では、海外営業の任務を与えられた者の素質や根性に頼る傾向も否定できないため、本社のバックアップ体制強化の意識も合わせて醸成しなければならない。

 途上国で「日本製品は割高」との見方をされる場合、相手方の資金力に照らして高いと思われる以外に、日本製品の素晴らしさが真に理解されていないことも多いようだ。製品を見て一目で、その良さを理解できる相手なら問題ないのだが。

 実際に製品を使ってもらう、というプレゼンが可能な場合は営業しやすい。例えば、マルト長谷川工作所のニッパー型爪切りは、研ぎ澄まされた切れ味で、爪に衝撃を与えずに軽い力で切れ、爪の端など細かい部位にも切り込んでいけるため、巻き爪や分厚い爪、割れやすい爪でも安心して使用できる。
まさに、消費者に使ってもらって製品の良さを理解してもらう、典型例ではないだろうか。

 しかし、そういう典型的なケースだけではない。例えば、各種研磨の精度チェックは、日本でも現場の熟練者の勘に頼っているのだから、途上国の相手方には理解が容易でないケースも多いだろう。

 また、途上国の相手方にとって日本製品は過剰品質の場合もあり得る。相手のニーズに合わせた品質管理ができれば、究極的には、(職人が許さないかもしれないが)「オーバースペック」と言われる現象も避けられるかもしれない。

 今後、中小企業の海外展開に必要な支援領域で見落とされがちであった領域、つまり、中小企業の現地営業をサポートするような何らかの「ツール」が開発されれば、中小企業の現地営業が推進され、結果、既存の政策効果も更に高まるのではないだろうか。

 冒頭で紹介した刃の研磨精度の測定装置を途上国での営業活動にうまく活用できれば、それが今後の中小企業の現地営業推進のヒントになるかもしれない。