5月の連休が終わり、トーポリの綿毛が舞うモスクワは夏のビジネスシーズンの訪れである。毎月発表されるマクロ経済指標は着実な景気回復を裏打ちしているのだが、折からのギリシャ・ショックの影響を強く受け、ロシア株式市場は急落を余儀なくされている。

ギリシャ危機にも関係なく力強い成長示すIT産業

参加者で賑わうロシアのIT関連のコンファレンス

 こうした強弱織り交ざったロシア経済の中で、ひと際力強い成長を示すセクターがある。それはITセクター、特にインターネットサービスである。

 ロシア経済に占める通信を含めたITCセクターの規模は基幹産業である資源・エネルギーとは比べるべくもないのだが、軍事技術の観点からITCセクターが重要であることはもちろん、イノベーションを標榜するロシア政府にとってはITCセクターが世界市場で競争可能な有望な産業セクターであることは間違いない。

 筆者もベンチャー投資の対象としてITセクターに注目している。ロシアのITと聞いてもピンとこない方も多いかと思うが、米グーグルの設立者の1人、セルゲイ・ブリンがロシア人であるように、ロシアのIT人材はBRICsは言うに及ばず、欧米諸国と比べても高い水準にある。

 かつてインテル・ロシアの社長が「不可能な仕事はロシア人に任せよ」と含蓄のある名言を残している。例えば、最近では解決不可能と言われたポアンカレ予想の解決に成功したロシア人数学者ペレルマンのニュースも記憶に新しい。

 彼は2003年にポアンカレ予想の解決を発表、2006年にはその功績により数学界のノーベル賞といわれるフィールズ賞を授与されたのだが、彼は受賞を辞退している。

あふれんばかりの参加者で賑わうIT関連のコンファレンス

 さらに本年(2010年)3月には彼の証明が間違いのないことが認められ、米国のクレイ財団から賞金100万ドルを授与されたのだが、彼はこの賞金の受け取りを拒否、そのまま行方をくらませてしまっている。いかにもロシア人らしいエピソードである。

 話をITに戻すと、4月21~23日、モスクワ市内から車で1時間ほど(渋滞していなければ)郊外にある保養施設でインターネット関連のコンファランス「RIF+CIB2010」が開催され、筆者もこれに参加してきた。

 3日間にわたるコンファレンスは、広い敷地内の10会場で同時にセミナーが開催され、参加者は5000人以上、セッションの合間に多くの人々が会場を渡り歩く光景は都内の大きな大学の休み時間のようであった。

 会場ではウクライナに住むIT関係の友人に出会ったが、ロシア・CIS諸国、つまりロシア語圏全体からかなりの関係者が集結していたのだろう。