日銀が提示している「中長期的な物価安定の理解」については、2009年12月18日の金融政策決定会合でゼロ%以下は含まれないという「明確化」が行われた際には、議事要旨の中で政策委員ごとの見解が明らかにされることはなかった。その後、5月26日に発表された議事要旨(4月30日開催分)によって、政策委員ごとの分布状況が明らかになった。

 2009年4月30日時点では水野温氏審議委員が在任していたが、すでに退任し、2010年4月30日には宮尾龍蔵審議委員が加わっている。下記図表からは、2009年4月まで「0.5~1%」という見解を提示していたのが水野審議委員であり、2010年4月に「0.5~2%で、中心は1%より幾分上の値」という見方を述べたのが宮尾審議委員である可能性が高いことが分かる。また、2009年4月時点で「0.8%を中心に上下0.5%の範囲内」としていたものの、その後中心点を0.2%ポイント切り上げて多数派に属すことになったのは、おそらく山口広秀副総裁だろう。

 なお、2010年4月に「1%よりゼロ%に近いプラスを中心に考えている」「中心値である1%を過度に強調するのは望ましくないのではないか」としたのは、言うまでもなく、須田美矢子審議委員とみられる。

 2010年4月30日会合で行われた「中長期的な物価安定の理解」の点検では、中央銀行が目指すべき物価上昇率を考える際に、ゼロ金利制約の観点から含まれる「のりしろ」と呼ばれる部分についても、政策委員の間で意見が交わされた。議事要旨に以下の記述がある。

「物価下落と景気悪化の悪循環に備えた『のりしろ』について、多くの委員が、これを勘案する必要があると述べた。ある委員は、ゼロ%を僅かしか上回らないようなプラスでは十分とはいえないとの意見を述べた」