米国大統領はつくづくタフだと思う。絶え間なく入ってくる米国関連のニュースを眺めていると、いくら優秀なスタッフが揃っているにしても、よくぞこれだけ仕事をこなせるものだと感心してしまう。

 ましてや大統領となる者は中高年。病に倒れた大統領の影武者を描いたコメディ『デーヴ』(1993)のように、影武者という選択肢もあるのでは、とさえ思ってしまう。

影武者が欲しい米大統領の超多忙

ヘミングウェイの「日はまた昇る」扉には、「ロスト・ジェネレーション」という言葉のもとになったガートルード・スタインからの言葉が載せられている

 映画では大統領は重体となってしまうのだが、実際そうなれば、職務遂行能力を第三者が判断する必要が出てくる。

 第1次世界大戦後、ウッドロウ・ウィルソン大統領(民主党)が脳血管障害で倒れたとき、そうして下された判定は、体に麻痺はあるものの思考能力に問題はないので大統領職にとどまり得る、というものだった。

 しかし、その後、長きにわたり、職務をこなす姿を夫人以外に見せることはなく、夫人が重要だと判断した仕事のみ大統領は行っていたというのだが・・・。

 何せ密室でのこと、謎も多く、実際には少なからず夫人自身が大統領職を遂行していたのでは、と見る向きもある。

 そうした尋常ならざる状況もあったのだが、第1次世界大戦後のインフレ、労使問題などで荒れる社会への国民の不満は大きく、1920年の大統領選では、「常態への復帰」を唱えた共和党ウォーレン・ハーディングが当選を果たすことになる。

 今では、その平々凡々ぶりと汚職体質から、史上最悪の大統領の烙印を押されることも少なくないのだが、このときは稀に見る大勝を収めたのだった。

 そこには、ウィルソンの掲げた「戦争を終わらせるための戦争」という理想主義的スローガンのもと戦場へと向かった多くの若者たちの喪失感(lost)も影響していた。

 イタリアの塹壕で重症を負ったアーネスト・ヘミングウェイも、そうした理想と現実の違いに人生観を変えさせられた者の1人。