川嶋 その通りだと思います。しかし、「中国は世界の工場」と言われていたときに、発展する沿岸地域に内陸部からコストの安い労働力がほぼ無尽蔵に供給されていた時代はすでに過去のものになろうとしています。賃金が急速に上がり始めています。

日本の投資はアジアに向かい、中国は内陸に向かう

マハティール元首相

マハティール 賃金が高騰し始めたのは専門職、エンジニアなどに限られていると思います。中国では十分なエンジニアが育っていませんから。もちろん、一生懸命に育成していますが、足りていない。

 一般的な工場の労働者の賃金はまだ非常に安い状態にあると思います。沿岸地域のコストは上昇しているものの、工場が内陸部へと移って低労働コストを甘受している。

 日本では、円高によって国内生産の競争力が失われたときに、ここマレーシアなど東南アジアに生産を移しました。

 しかし、中国は外国へ出ることはせずに内陸へ内陸へと向かっている。中国の西部はまだまだ労働コストが安いからです。

川嶋 日本企業も中国の沿岸部から内陸部へと工場を移転させているところもあります。一方で、中国をあきらめて東南アジアに移転させている企業も増えているようです。

マハティール 東南アジアへの投資はそれはもうウエルカムです。東南アジアはまだまだ外国からの直接投資を必要としていますから。

 しかし、日本にとっては日本からお金が逃げ出しているという認識は必要ですよ。中国が嫌だから東南アジアに移るのはいい。でも日本の労働者にとっては良くないのは同じことです。

 日本の立場に立って考えるとき、日本はドイツをもっとモデルにすべきだと思います。ドイツはご存じの通り、誰にでも作れるようなローエンドの製品で競争しようとはしません。

 例えば自動車でも、ハイエンドの製品に特化している。しかし、日本は相変わらずマスマーケットを追い続けています。日本にはせっかく高い技術がありながら、高い利益をもたらしてくれる市場ではないところで勝負し続けている。