前回書いたように、チャンスは「チャンスだよ」と言いながらやっては来ません。マキァヴェッリは、チャンスについて概略こんな詩を書いています。

 「美しい女が目の前を通りすぎていこうとするのを誰何(すいか)すると、『私はチャンスの女神です』。ではその後についてきているもう1人の女は誰かと聞くと、『あれは後悔の女神です』。

 私(チャンスの女神)の正体を知ると人は捕まえようするが、その時にはもう遅くて人は遅れてやってくる後悔の女神を捕まえてしまう。こうやって話しているうちに、あなたはもう私を取り逃がしているのよ・・・」

 マキァヴェッリは29歳でフィレンツェの書記局長になりましたが、政変によって42歳でクビになりました。その後もう一度政府の仕事がしたいと就職活動を続け、就職のチャンスをつくろうとして「君主論」や「ディスコルシ」などの本を書きました。しかし、結局復職はなりませんでした。

 復職がならなかった理由は、メディチ家の敵として強力だと思われてきたからです。有能であるがゆえの不運だったと言えましょう。

戦に勝ちながらローマから逃れた将軍カミルス

 マキァヴェッリ同様、読者諸兄もいつ不運に見舞われるか分かりません。あるいは今、見舞われている最中だとぼやく方もおられるかもしれません。

 「臨時独裁執政官になることで特に勇気が出るわけでもなく、追放になったからといって勇気がくじけもしなかった」
 この言葉から、偉大な人間は、どんな環境に置かれても常に変わらないことが知れる。
(『ディスコルシ 「ローマ史」論』、ニッコロ・マキァヴェッリ著、永井三明訳、ちくま学芸文庫)

 

 「臨時独裁執政官」うんぬんと言っているのは、共和制ローマの英雄、マルクス・フリウス・カミルス(紀元前446年~紀元前365年)です。カミルスは、前々回に触れた長期間にわたる共和制ローマとウェイイ人との戦争を終わらせた将軍です。