米国の小売業界で過去1年、しきりに取り沙汰されている仮説がある。それは地上に店舗を構える大型小売店が「やがては終焉する」というものだ。

 「地上派」の代表格は業界最大手のウォルマート(本社アーカンソー州)である。一方、「ネット派」の代表がアマゾン(本社ワシントン州)だ。

ウォルマートは足踏み、アマゾンは躍進

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ネット通販で肩を並べるものがなくなったアマゾンのジェフ・ベゾスCEO〔AFPBB News

 どちらも一般消費者を対象にしたビジネスだが、20世紀型の薄利多売を信条とするウォルマートが足踏みし、ネット通販で闊歩するアマゾンが興隆する流れはすでに誰の目にも明らかだ。

 アマゾンと言えば、かつては本やDVDの販売に特化していた。だが今では、ウォルマートが店舗で売る物品をネット上で売っている。

 乳児用の紙オムツから腕時計、靴、アパレル製品まで多岐にわたる。いまさら記すことでもないが、ネット上で買えないものはないと言えるほどのレベルに達しつつある。

 「地上派」が終わるという仮説はあくまで仮説の話であるが、米国では車を飛ばしてショッピングする時代は終わりを迎えつつあるという脈動を感じさえする。それは欲しい物はネット通販で入手することを意味する。

 ただ「地上派」の小売大手がすべて数年後に姿を消すわけではない。徐々に縮小し、淘汰されていく運命にあるかもしれないという仮説だ。

 ウォルマートとアマゾンの企業規模を見ると、今はウォルマートが圧倒している。売上高は4189億ドル(約33兆5000億円・2011年1月期)とアマゾンの480億ドル(約3兆8400億円・2011年12月期)という数字で比較にならない。

 それでも昨年6月、ある予測が世間を騒がせた。両社の成長率が現在のまま継続されると、2024年には両社の立場は逆転するとの見方だ。その兆候はすでに出ているし、逆転の時期は早まる可能性さえある。

 アマゾンの昨年の売上は前年比で41%増。驚異的な数字だ。一方のウォルマートは8%に過ぎない。近年、8%の成長率を達成できれば文句を言う社長はいないが、アマゾンの急追は「ネット派」の勢いをそのまま物語っている。