幸運の女神がすぐそばを通っているのに気づかない人がいる。無視する人がいる。一方では、数少ないチャンスをうまく利用して発展に結び付ける人がいる。

 経営者にとって必要な資質は沢山あると思うが、最も大切な資質の1つは、チャンスを見極めて、それを生かす能力と言えるだろう。

 つい先だって、私が最も尊敬する経営者の1人である鈴木照男さんの訃報が届いた。鈴木さんは五輪パッキング(埼玉県入間市)の創業者であり、チャンスをモノにする名人だった。1935(昭和10)年生まれだから、まだまだ一働きできる年齢だった。本当に残念だ。

「将来は5人で一緒に仕事をしよう」

 鈴木さんは4歳の時父上を交通事故で亡くされた。だから苦学勤労少年を絵に描いたような少年時代だ。小学4年生から家計のために新聞配達をしながら小学校、中学校に通った。好きな野球も道具は友達から借りなければならなかった。しかし、指導力があったためか、生徒会の会長や役員にいつも選ばれていたという。

 成績も良かったのだが、家が貧しかったので、高校進学は経済的に無理だと諦めていた。

 ところが、ある朝、新聞配達を終えて帰ってみると、玄関に真っ白な封筒が落ちており、「ぜひ進学して、世の中の役に立つように」という手紙と、進学資金が入っていた! 

 鈴木さんは送り主が誰とは明かさなかったが、今でもその時の感謝の気持ちは忘れられないという。鈴木さんの「会社は社会のもの。お客様のニーズに応え、社会に貢献していくためにある」という考え方は、このような思い出をベースにしていたのだろう。

 商業高校に進学した鈴木さんは誰とでも仲良くしていたが、特に気のあった仲間5人で行動することが多かった。この5人が卒業記念で箱根にハイキングに行った。「野天風呂は良かった」「芦ノ湖が見えたぞー!」と騒ぎながら歩いていたのだが、誰が言うともなく「将来この5人で一緒に仕事ができたらいいなあ」という話になった。この夢が15年後に実現する。だから社名にある「五輪」とは、5人が輪になるという意味だ。オリンピックのように世界一を目指すという意味もあるが・・・。

紳士服店勤務時代に出合った不織布

 結局、鈴木さんは、当時誰もが羨む一流銀行の銀行員になった。ところが働いているうちに行き詰まった。どうも一流大学を出ていないと偉くなれないらしい。偉くなれないのはいいとしても、ちゃんとした仕事をさせてもらえない。不満に思っていた時に、親戚の紳士服店が人手が足りないというので、請われてそこに移った。