しかし、今日、この話の信憑性を疑う声も少なくない。実のところ、商売に長けていたウィームスが大衆の空気を読み取って創作したものでは、と思われているのである。

 当時は、独立戦争は終わったとはいえ、まだまだ、混乱の時代。英雄を待望する世相であったことは間違いないからである。

米国人にとって格別の存在、ワシントン

高峰譲吉の化学者としての半生を描いた「さくら、さくら」

 それでも、米国におけるワシントン像には、今も確固たるものがあり続けるようだ。

 社会の底辺で暮らす子供たちを描いた現代劇『ジョージ・ワシントン』(2000/日本未公開)にはジョージ・ワシントン初代大統領は出てこないが、ワシントンを崇拝する13歳の少年ジョージが主人公の1人として登場する。

 そして、正直でいることや教育の重要性など、花言葉を感じるがごとく、題名から読み取れるような内容の映画となっているのである。

 実際、独立戦争時にも、ワシントン以上に卓越した人物はいたらしい。ワシントン自身、戦いでは何度も敗退を経験しているわけだから、神格化できるほど無敵を誇っていたわけでないことも事実である。

 しかし、建国神話と結びつくワシントンの力を否定してしまっては、米国の建国理念までも否定されかねないから、絶対的存在でいてもらった方が都合がいいのである。

 そして、前回のコラムで紹介したようなワシントンより前に存在していた連合会議presidentのような「その他大勢」は弱いに越したことはないということになるのだろう。

(本文おわり、次ページ以降は本文で紹介した映画についての紹介。映画の番号は第1回からの通し番号)

(546)TAKAMINE アメリカに桜を咲かせた男 (547)桜桃の味 (548)ジョージ・ワシントン