現在、北朝鮮が進めているウラン濃縮も、日本にとっては極めて重要な問題である。北朝鮮がすでに保有しているプルトニウム型の爆弾は、起爆装置の設計が複雑で、前述したように北朝鮮もそこで小型化に手こずっているわけだが、濃縮ウラン型の爆弾は格段に構造がシンプルなので、もしも北朝鮮が兵器級の高濃縮ウランを製造した場合、容易に小型化してノドン弾頭に搭載できるのだ。

北朝鮮がICBMを開発したらアメリカが黙っていない

 振り返ると、2009年4月に北朝鮮が日本を横断するテポドン2改の発射を行った時も、日本では大騒ぎになった。しかし、同年5月に2度目の核実験が行われた時は、それほど騒がれなかった。北朝鮮ネタに飽きたということかもしれないが、騒ぐ優先順位が完全に間違っていると言わざるをえない。

 むしろ、核問題こそが日本にとって死活的に重要なのに、そちらは報道でもあまりにも簡単にスルーされ過ぎている。もう何年も報じられて続けてきたことなので、政府も報道機関も国民も慣れてしまっているのかもしれないが、もっと真剣に危機感を持つべきだろう。

 ミサイル問題は日本にとって重要ではないが、核開発問題は、日本こそが今もっとも瀬戸際に立たされていることを自覚しなければならない。

 例えば、オバマ米大統領は3月25日、核サミット出席のために訪問した韓国で、北朝鮮の衛星打ち上げ準備を非難する声明を発表するなど、北朝鮮への圧力を強めてはいるが、実際のところ軍事的にはアフガニスタンやイランへの対応で手一杯で、北朝鮮のことなどは二の次三の次だ。

 これは、北朝鮮が現時点ではまだ米本土へ届くICBMの実現化には至っていないからである。核弾頭が実現化すれば、韓国や日本、在韓・在日米軍、さらにテポドン2改の射程に入る可能性のあるグアムあたりまでは脅威下に置かれるだろうが、ニューヨークやワシントンが危険になるわけではない。アメリカは要するに、まだまだ余裕がある。仮に核ノドンが完成しても「まあ、いいか」という感じだ。日本は無論、そういうわけにはいかない。日本とアメリカでは安全保障の事情がこれだけ違うのである。

 とはいえ、北朝鮮が仮にICBMを開発しそうになったら、アメリカも黙っていないはずだ。軍事行動も含め、必ずそれを阻止しようと強力な圧力をかけるだろう。だから、もしも純粋に日本の安全保障だけを最重要視すれば、北朝鮮が核ノドンを開発する前にICBMを開発し、アメリカを本気にさせてくれた方が、逆に都合がいいとさえ言える。

 もちろん日本の安全保障だけで外交戦略を考えるわけにはいかないから、日米韓が一致し、ロシアや中国も巻き込んで北朝鮮の核ミサイル開発への圧力を高めることが必要である。だが、日本はアメリカとも韓国とも安全保障上の事情が違うということを認識し、国民の安全のために何がもっとも重要な戦略かということを、冷静に考えるべきだろう。

 

※2ページ目最下段、大気圏の高度を記事公開時「高度1000キロメートル程度」としておりましたが「高度100キロメートル程度」の誤りでした。お詫びして訂正します(編集部、2012年3月29日