食事は10分、風呂は15分、小銃の分解手入れも、ワイシャツのアイロンがけも5分でできるという生活を身につける。そういった生活を通じて、規則には従うという遵法精神、時間厳守、計画的行動、整理整頓などの文化を学ぶ。

 自分の部屋の下級生が他の上級生に指導を受ければ、直ちに室長はことの理非を正して、不合理な指導であれば、その指導をした学生に反論してかばってくれる。土日などの外出時には、上級生は下級生に食事や、酒をおごったりすることもあり、文字通り「室」の8人は家族同然になっていく。

 2年生は1年生にとってうるさい先輩ではあるが一番親身に面倒を見てくれる関係でもある。また1年生にとって4年生は本当に立派に見えた。頭が切れ、言うことが素晴らしく、スポーツもでき、服装態度、見た目もかっこよく、敬服するという言葉を実感したものである。

 そして4年間の生活で、下級生の信望を得て、統率力を発揮するにはどうあるべきかを学んでいく。大変そうな生活だと思われるだろうが、実際大変である。特に1年生の最初の3カ月くらいは。

 したがって最初の数カ月でなじめず退学していく学生もいる。しかし人間慣れるものである。規則、ルール、マナーといろいろ言うが、つまるところそれらは集団生活をより円滑に行い、お互いの摩擦を少なくするためのものである。

【写真特集】震災被災地で活動する自衛隊員ら

東日本大震災から1カ月後の4月11日、宮城県気仙沼市で地震発生時刻に黙祷する自衛隊員〔AFPBB News

 また軍事的組織が機能発揮するのに必要な文化としてできてきたものが規律や躾などであって、それを理解納得し、慣れてくれば苦痛でなくなるどころか快適でもある。中に入ってなじんでしまえば外から見るほど大変ではない。

 そういう全寮制の生活でおまけに衣・食がタダでいいな、というなら「その通り、君は自衛官に向いている。ぜひ防衛大学校へお入りなさい」と言うだけである。現在は女子学生も入っており、筆者が学生だった当時とは多少様相も変わってはいるだろう。

 確かに、団体生活に向いている人には、なじむのも早く、快適に過ごしていくのだが、兄弟の数も少なく小さい時から個室の生活をしていて、面接試験はあるものの学科試験主体で入ってくる新入生がすべて順応できるとも言い難い。

 どうしても順応できない人は早めにやめていくということは先に述べたとおりだが、これはどこの世界にもあり仕方がない範疇である。しかし団体生活に違和感を覚え、いつやめようかと悩みながらも、せっかく志した道だからと何とか4年間頑張りとおしたという学生も少なくない。

 陸海空自衛隊の職域は極めて広く、典型的団体生活である防衛大学校の学生舎生活(寮生活)に完全にはなじめなかったとしても4年間頑張ったほどの学生なら、必ずふさわしい職務、職域があり、多くの卒業生が広く活躍しているのは、周知のとおりである。任官した後も悩みつつも自分の部下ができることで吹っ切れて、心機一転、大成した卒業生も少なくない。