また、択捉島は、千島列島中、最大の島で、かつて連合艦隊が真珠湾出撃に際して停泊した単冠(ひとかっぷ)湾という大きな入り海と大型飛行場の建設ができる十分な地積を有している。いわば、択捉島と国後島は、千島列島における「軍事・地政学上の最重要拠点」なのである。

 つまり、軍事的、地政学的要求を第一義と考えるロシアにとって、歯舞群島と色丹島の2島返還はあり得ても、国後島と択捉島の返還は、現状の経済協力を中心とした外交的アプローチでは極めて難しいと言わざるを得ない。

 戦争で失ったものは、戦争で取り返すしかない。このことは、必ずしもすべての領土問題に当てはまるわけではない。しかし、「力の信奉者」であり、「戦争で勝ち取ったものは渡さない」を基本姿勢とするロシア相手の北方領土問題に限って言えば、我が国は、国家としてその意思と覚悟を固めて掛からなければならない。

 そこでまず、北日本、特に北海道に対するロシアの侵略を未然に防止する抑止の体制を強化する必要がある。そのうえで、沿海州・樺太から北方領土への戦力集中に難があること(日本と比較して)や冬季にオホーツク海が流氷に覆われ大規模な軍事力の移動を制約することなどロシア側の弱点を考慮に入れ、軍事的に北方領土を奪還できる力と態勢を早急に整備することである。

 また、現在我が国は、非核三原則のうち「持ち込ませず」との兼ね合いで、宗谷、津軽、対馬の3海峡を特定海峡として領海3海里を採っており、ロシア艦艇の自由航行を許している。これを、国際法が認める領海12海里に変更してロシア艦艇の通峡や航空機の上空通過に圧力をかけ、封じ込め(包囲)の態勢を取ることも有力な選択肢である。

 その代わり、ロシアが4島返還に応じれば、例えば、国境線を挟むことになる日本の択捉島から国後島とロシアのウルップ島からシンシル島までを含むエリアを非武装地帯(DMZ)に設定する。

 そして、相互に警戒監視を除いた軍事力の配備は禁止するが、各島嶼間の通過は妨げないとの提案を行えば、ロシア艦艇(潜水艦を含む)の国後水道を経由する太平洋への出口確保という軍事的要求に合致して妥協点を見出せるかもしれない。

 いずれにしても、ソ連(ロシア)による北方領土の軍事占領とそれに次ぐ不法占拠には、軍事的また地政学的な意図や要求がその根底にあるというのが歴史的事実であり、その点を重く認識しなければならない。

 そして、日本は、軍事・地政学的あるいは安全保障上の対応策を確立することが不可欠である。

 そのうえで、我が国の決意を示す軍事態勢を取りつつ、地政学的解決策を提示し、ロシアが欲する経済協力をテコとして、ヤルタ協定およびサンフランシスコ講和条約の当事国として重大な責任がある米英仏を中心とする国際社会を巻き込んだ粘り強い外交交渉を行えば、もつれにもつれた北方領土問題を打開し、解決する可能性の糸口が見えてくるに違いなかろう。