「将来世代に負の遺産を残さないために消費税を上げる」。野田佳彦首相は何度も繰り返しこう主張し続けているが、矛盾を感じないのだろうか。結婚し子育てをしてレジャーもしたい。欲しいものはいっぱいある。こういう若い人ほど消費税に苦しめられるのではないのか。

消費税アップで多大な負担を強いられる若者たち

 子育てが終わって社会の一線から引退し始めている人々にとっては、消費税が上がっても不要不急のものを買うのを手控えればいい。負担増をそれほど感じることもないだろう。ましてこれから先、消費税を払う期間は若者に比べれば圧倒的に少ない。

 かつて早稲田大学の森川友義教授の『若者は、選挙に行かないで、四〇〇〇万円も損をしている!?』(ディスカヴァー)という本を紹介したことがある(「4000万円も損している日本の若者たち」)。

 選挙に行かないことで、政治に深く結びついた既得権益者に利益誘導が行われ、権益の全くない若者は大人たちに比べて、生涯で平均4000万円も損をすることになるというのである。

 もし消費税率のアップが決まれば、その格差は拡大の一途をたどるはずで、4000万円どころか5000万円、6000万円、場合によっては1億円へと拡大するのは間違いない。消費税アップの議論を安易に他人事ですませてはいけない。

 慶応義塾大学の竹中平蔵教授は「いったん消費税の増税が決まれば、5%のアップだけですむはずがない。社会保障などが全く拡充されないまま、17%までずるずる上がっていくことは目に見えている」と話す。増税分のほとんどが既得権益者へのバラマキに使われてしまうだけ、というのである。

バラマキで10兆円も支出が増えた

 もちろん、バラマキを受ける既得権益者の中には若者はほとんど含まれない。

 何しろリーマン・ショックが起きた2008年度の一般会計歳出84兆7000億円に対して、2011年度は10兆円増の94兆7000億円にまで増えている。2012年度は、昨年12月24日に閣議決定された予算案の段階で96兆7000億円と過去最大規模に膨れ上がる予定だ。

 歳出削減には全く取り組まずバラマキを続けながら消費税を上げ続けることは、将来世代に負の遺産をより大きく残すことを意味している。

 いま日本政府が意を決して取り組まなければならないのは、古いしがらみを脱ぎ捨てて日本の将来を担う若者たちのために新しい成長産業を生み出すことであって、古いしがらみを守るためバラマキを続けるために消費税率を上げることではない。