放射能に敏感すぎる流通業界と政府の鈍感

狭間で振り回される水産加工業者

2011.11.21(Mon) 高成田 享
筆者プロフィール&コラム概要

 大手スーパーの一部が「少しでも放射能が検出された食品は販売しない」という措置を取り始めたことで、被災地の水産業界に困惑が広がっている。

 国の魚を含む食品に対する「暫定規制値」が「500ベクレル/キログラム」(飲料水、牛乳・乳製品は200ベクレル)なのに対して、「ゼロベクレル」という基準が厳しすぎるためだ。実際、すでにいくつかの水産物でセシウムが検出されたため、その市場から出荷される同じ産物は購入停止になっているという。

残留農薬には「ゼロ」を求めないのに・・・

 48ベクレル/キログラムのマダラが見つかったために、マダラを締め出されたある魚市場の関係者は、「国の規制値の10分の1以下の水産物がたまたま出たことで、もうそれを買わないというのは、産地にとっては厳しすぎる対応だ。大手スーパーは米国の圧力に屈して、日本の産地を滅ぼそうとしている」と憤る。

グリーンピースがスーパーの食品を対象に実施している「食品放射能調査」結果資料の一部
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 突然、日本の市場を狙う米国の陰謀説が出てきたのは、食品の放射能汚染について、グリーンピースなどの環境保護団体が大手スーパーの食品について調査結果を公表するなどして、目を光らせているためだ。

 確かに国産農水産物の多くからセシウムなどが検出されるようになれば、農水産物を米国からも輸入するしかなくなる。だが、国内の生協でも同じような措置を取っているところもあるから、米国の陰謀というよりは、消費者の不安が大きいということだろう。

 消費者にとって「検出されず」の方が安心できるのは当然で、大手スーパーがそれになびくのは仕方のないことかもしれない。とはいえ、「体重60キロの日本人なら、体内にカリウム40という放射性物質が4000ベクレル存在する」(核融合科学研究所/総合研究大学院大学)などと言われると、ゼロという基準は厳しすぎるのではないかと思う。

 食べ物の安全という点で思い出すのは、農産物の残留農薬基準である。厚生労働省は流通を規制する残留農薬の濃度を公表してきた。しかし、消費者の中には、この規制値に満足せず、無農薬や低農薬の農産物を求める人たちもたくさん出てきている。

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1948年生まれ。東京大学経済学部卒業。71年に朝日新聞社に入社。山形・静岡支局員、東京経済部員、アメリカ総局員(ワシントン)、経済部次長、アメリカ総局長(ワシントン)、論説委員などを歴任。96年から97年にかけてテレビ朝日「ニュースステーション」キャスターを務める。定年後にシニア記者として2008年1月より2011年2月まで石巻支局長。2011年4月より仙台大学教授。仙台白百合女子大学非常勤講師、前橋国際大学客員教授。農林水産省太平洋広域漁業調整委員会委員。主な著書に『ディズニーランドの経済学』(共著)、『アメリカの風』、『アメリカ解体全書』(共著)、『榎本武揚』(共編著)、『こちら石巻 さかな記者奮闘記』『話のさかな・コラムで読む三陸さかな歳時記』(共編著)などがある。


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