ゴスフィルモフォンド(ロシア国立映画保存所)の招きで、2月1~6日に開催された映画祭「ベールィエ・ストルブィ」に参加してきた。ゴスフィルモフォンドは世界最大級のフィルムアーカイブ(映画保存所)で、ギネスブックにも載ったことがある。劇映画、アニメーションを中心に集めており、所蔵作品タイトル数は6万点を超える。
旧ソ連で作られた劇映画、あるいはソ連が輸入した外国映画のネガから上映用ポジフィルムに至るまでがここに保管されている。前身となる機関は1930年代につくられているので、その頃までの作品には失われたものもある。
世界中の映画研究者にとって貴重な場所
ゴスフィルモフォンドの正面入り口へ通じる道と「ベールィエ・ストルブィ2010」の横断幕しかし、それ以降の作品については、ほぼすべてがここに集められており、ロシア・ソ連の映画を研究する者にとってはもちろん、それ以外の国の作品を研究する者にとっても貴重な場所となっている。
ここには戦前の日本映画のコレクションもある。近年、日本から失われてしまった作品の「里帰り(repatriation)」事業が行われたことは、新聞報道などでご存じの方もいるであろう。ゴスフィルモフォンドの精神は、「入手したものはすべて保存し、絶対に捨てないことだ」と第一副所長のウラジーミル・ドミトリエフ氏は常に語っている。
里帰り事業でも、オリジナルの返還ではなく、良質なコピーが日本に来たわけである。私は、この姿勢は収集事業の極めて真っ当なあり方だと思っている。そのおかげで、1980年代後半のペレストロイカ(国の建て直し)の時期に、弾圧を受けたはずの映画作品が、棚の奧やデスクの引き出しの奧から出てきて、我々の前に姿を現したのだ。
ゴスフィルモフォンドは、空気の汚れた都心を避けて、モスクワ郊外のドモデドヴォ空港に近い場所に設置されている。数年前に、近所に工場ができてしまい、その影響が懸念されてはいるが、都心に比べるとはるかに空気のきれいな場所だ。ここに巨大な保管庫と、現像のための工場が設置されている。職員数も数百人に上る巨大機関だ。
さて、映画祭「ベールィエ・ストルブィ」は、もっぱらロシア国内の映画研究者および映画人を対象とするもので、フィルムアーカイブの存在意義を示す玄人向けの催しである。一般人向けに開放された上映会ではなく、保管庫に隣接する場所にある上映ホールと宿泊施設を使って行われている。
チェーホフが特集として選ばれたワケ
映画祭会場の入り口。奥に見える赤い建物が上映ホール。 敷地の中は、地名のベールィエ・ストルブィ(白い柱)の由来とな った白樺の林が残されている今年で14回目を迎えるが、基本的な内容の柱は、(1)映画史に新たな切り口を与えることによる埋もれた作品の再評価、(2)映画人の回顧、(3)新たな発見の披露――の3つが挙げられる。
今回、「新たな切り口」として特集が組まれたのは、「チェーホフとチェーホフたち」「亡命ロシア人と映画」「イワン雷帝」「1940年―第2次世界大戦の2年目」の4つ。
作家のアントン・チェーホフ(1860~1904)が、今年生誕150年を迎えるのに合わせて組まれたのが、「チェーホフとチェーホフたち」。「チェーホフたち」とは、作家の親戚で俳優として活躍した人々をこここでは指している。
作家チェーホフの甥で、1920年代末に西側へ出てドイツ、英国、米国で活躍したミハイル(ミヒャエル/マイケル)・チェーホフ。ミハイルの最初の妻で、オリガ・クニッペル=チェーホワ(作家の妻)の姪でもあったオリガ・チェーホワ(オルガ・チェーホフ)。
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