今パリで意外な人気を呼んでいる、ちょっと風変わりな展覧会がある。タイトルは「Paris Inondé 1910(水浸しのパリ 1910年)」。今からちょうど100年前、パリはセーヌ河の氾濫による大変な洪水に見舞われた。

 この展覧会は、1世紀を経た災害の回顧展というわけだ。場所は、マレ地区にあるパリ市の施設。博物館でも美術館でもなく、そう広くもない多目的スペースだが、ここの2フロアを使って、当時の模様を伝える写真や史料などが展示してある。

パリ市民が押し寄せるパリの洪水展

パリを流れるセーヌ川

 セーヌは私の長年のテーマでもあるから、この手の催しは欠かさずに見ておきたいというところ。

 開催から間もない土曜日に早速、出かけてみたのだが、有名な芸術作品が飾ってあるわけでもないこの展覧会が、思いのほかたくさんの人でにぎわっていることに、少なからず驚かされた。

 1910年と言えば、写真の草創期から既に半世紀余りが過ぎ、ジャーナリズムで使われる画像も、絵やデッサンと並んで写真が多用されるようになった時期。そのおかげで、洪水の様子はモノクロの写真としてたくさんの史料が残されている。

 この展覧会でも、見ものはやはりこれらの写真で、パリの被災風景を写したはずのものではあるが、人々の表情に笑みがあったりするあたりは、お祭り騒ぎとまでは言わないにしても、この洪水が非日常のイベントのような騒動だったのではないかと想像される。

 また、「パリ―ベニス」というタイトルが当時の新聞に踊っていたように、街路一面が水で覆われたパリの風景は、全く幻想的な美しさ。当時の写真家たちは、悪条件をものともせず、果敢に被写体を探しただろうと思わせる。

台風や梅雨もないパリで洪水が発生とは?

1910年の洪水の水位を知らせるプレート。サンルイ島の川岸にて

 ところで、パリの美しい風景を語るうえで欠かせないセーヌ河が洪水を引き起こすとは、それこそ寝耳に水、かもしれない。

 ブルゴーニュ地方の丘陵地に端を発し、700キロ余りの旅の末に、ノルマンディ地方はオンフルールとルアーブルの間で大西洋へと注ぐこの河。

 潤している大地には、あまり高低差がないために、地図で見ると、その流れは狭い間隔で何度も何度も蛇行を繰り返す。

 一般的に川の水量が増すのは、日本人の感覚からすると、梅雨の頃か、あるいは台風の時期というのが普通だが、そこは梅雨も台風もないフランスのこと。

 洪水の原因はむしろ、秋の雨や冬の雪。つまり、時期としては冬から春先にかけて、上流の大地からじわじわと、けれどもしたたかに集まった水によって数日がかりで水位が上がり、また同様に時間をかけてゆっくりと水がひいてゆくという動きになる。