12月7日、台湾の馬英九総統は、日本のメディアと総統府で会見し、米国が近く台湾に対して多用途ヘリ「UH60ブラックホーク」とディーゼル潜水艦を供与する見通しであることを明らかにした(「読売新聞」電子版、12月7日)。

 台湾が渇望してきた「F-16C/D」供与(前回のコラムを参照)は、またしても「おあずけ」となった格好だが、この報道内容が真実なら画期的なことであり、オバマ大統領から馬英九総統への「破格のクリスマスプレゼント」となる。

 自然災害の救助に有用な多用途ヘリUH60の供与は、以前から当然視されていたし、これだけなら中国を刺激する要素はほとんど無い。しかし、台湾海軍の戦力を大幅に向上させることになる潜水艦の供与となるとまったく話が違う。

 オバマ大統領は、良好な米中関係を緊張に陥れる決断を本当にしたのだろうか。馬英九総統本人が明言したとすれば、確たる根拠があるはずだ。

 これまでの経緯を含め、米国の対台湾潜水艦供与問題を検討してみたい。

悲惨とも言える台湾の潜水艦戦力

 中国は、アジアで最大の潜水艦戦力を保持している。「サイノ・ディフェンス・ドットコム」によれば、今年の時点で中国の潜水艦は、原子力潜水艦8隻、ディーゼル潜水艦58隻を数える。しかも、そのうち31隻が、ここ10年で新たに戦列に加わった新造艦である。

 一方で台湾が保有するのはディーゼル潜水艦4隻にすぎない。その内訳は、米国が1940年代半ばに建造し、73年に台湾に供与した艦齢60年を超えるテンチ級(ガピー級改装型)2隻と、80年代後半にオランダから購入したズヴァールドヴィス級2隻である。後者もすでに艦齢20年を超える老朽艦だ。

 台湾はこの4隻の潜水艦を、海軍の対潜水艦戦訓練のための標的艦として運用しているに過ぎない。哨戒パトロールのオペレーションはしていない。さらに、実際の戦闘行動で運用に耐えるのは、オランダ製の2隻にすぎない。

 中国の台湾進攻シナリオの選択肢の中に、台湾に対する海上封鎖作戦が指摘されるのは、台湾のこうした悲惨とも言える潜水艦事情が背景にある。

ブッシュ大統領は台湾への潜水艦供与を承認したが

 実は2001年4月に、就任早々のブッシュ大統領は台湾向けの巨額な武器供与パッケージを承認し、その中にディーゼル潜水艦8隻が含まれていた。