前回は、地域を取り巻く環境の変化、特に(1)人口減少・高齢化の急速な進行、(2)東京圏一極滞留、(3)地域経済の規模の縮小、(4)投資余力の減少、(5)平成の大合併、の5つの変化が地域に大きな影響を与えているというお話をしました。

 こうした地域を取り巻く環境の変化を前提とすると、これまでのような右肩上がりの経済成長を期待することは難しい。むしろ、地域の総力を挙げて成長の定常化が何とか維持できる、そのような時代になったと言えます。

 このような経済社会の大転換期にあっては、これまで当たり前と考えられてきた価値観そのものを変えていく大胆なパラダイムシフトが必要です。地域再生が目指す姿も大きく変わらざるを得ません。

 今回は、まず、これからの地域再生が目指す姿とはどのようなものか、についてお話しします。また、私はその実現には「地域コミュニティーの再生」と「地域内循環型経済構造の構築」を戦略的に進めることがポイントとなると考えていますが、なぜそうなのか、詳しく見ていきたいと思います。

物質的な「豊かさ」を追求する時代は終わった

 第2次大戦後、奇跡的な経済回復を遂げ、順調に経済成長を続けた日本は、1967年に当時の西ドイツを抜いてGDP世界第2位となって以来、30年以上にわたり、米国に次ぐ世界第2位の経済大国を誇ってきました。統計の上では世界で2番目に豊かな国ですが、毎年3万人を超す人が自ら尊い命を絶たざるを得ないという事実からも、暮らしの中で幸せだと実感している日本人はあまり多くありません。

 このようなことがどうして起こるのでしょうか?

 それは、物質的な豊かさではなく、精神的な豊かさを国民が求めるようになったからです。

 国内総生産(GDP)や域内総生産の数字は、地域の活性化や再生の成功指標としてこれまでよく使われてきましたが、物質的な豊かさを満たすことが求められた時代の指標としては重要な指標であったと言えるでしょう。その意味でGDPや域内総生産の規模が人間の幸福と無縁だとは言いません。

 しかし、成熟した日本では、経済を測る物差しとしてのこれらの指標が「豊かさ」そのものを表しているという考え方は、もはや共感が得られなくなっているのです。

 そもそも、私たちは何のために「経済成長」を追い求めてきたのでしょうか。心豊かに過ごす幸せな暮らしという非経済的な事柄の実現を支え、持続させるための手段だったはずです。それが、いつの間にか目的へとすり替わってしまった。このことが問題なのです。

 政府も、ようやくそのことに気づき、国内総生産(GDP)などの経済指標だけでは測れない家族とのつながりや健康、社会との関わりといった「幸福」にかかわる分野について、新たな指標を作り政策の立案や評価に活用することを目的として、「幸福度」の指標を策定するための研究会を2010年12月に発足させています。