2009年1月1日――。世界経済は「100年に1度」の危機から脱却できるのか。その分かれ目となる新年の幕開けを、中国の温家宝首相は青島(チンタオ)で迎えていた。大手家電メーカー、ハイアールグループ(海爾集団)の本社・工場の視察がその目的であり、ここから国内外に重大な政治的メッセージを発信していた。(写真も筆者撮影)

ハイアールを視察する温家宝首相(中国・青島のハイアール本社でビデオ画像)

 温首相は次のように演説した。「ハイアールの金融危機に対する経験がわれわれに一つの道理を教えてくれた。すなわち、危機の中に機会があり、機会は創新(イノベーション)から生まれるということだ」

 2008年9月のリーマン・ショック後、中国政府はいち早く4兆元(約60兆円)規模の景気対策を出動。家電や自動車の購入に対する補助金支給などで、なりふり構わず個人消費を刺激した。

 その結果、2009年第1・四半期に6.1%まで減速した実質GDP成長率は、第2・四半期7.9%、第3・四半期8.9%へ急回復を遂げた。通年でも政府目標の8%成長が確実視され、劇的なV字型の回復が実現しそうだ。

 しかし政府が笛を吹くだけでは、V字型はあり得ない。温首相が指摘したように、それに合わせて踊れるレベルまで中国企業が着実に成長しているのだ。新年の首相視察に選ばれたハイアールはその象徴と言うべき存在。政府と産業界が複合体を形成する米国の「コーポレート・アメリカ」は勢いが衰え、そのお株を奪う形で「コーポレート・チャイナ」が世界市場を席巻しようとしている。

購入額の13%を財政補助、「家電下郷」が農村需要を拡大

ハイアールの司令塔(中国・青島)

 ハイアールは創業25年で売上高が1190億元(約1兆8000億円=2008年)に達し、「世界で最も急速な発展を遂げた企業」(米フォーブス誌)と称される。従業員は約6万人。世界165カ国以上で家電製品を販売する。「白物家電」では中国ナンバー1であり、洗濯機と冷蔵庫のブランド別シェアでは世界1位だ。(参考=2009年10月20日漂流経済「『白物家電』市場を席巻する中国企業」)

 ハイアール世界戦略の司令塔が、青島にある本社・工場。敷地面積は150万平方メートルに達し、東京ドームが約33個も収まる広さだ。

 筆者が取材した際、液晶大型テレビの組み立てラインは1日6000台のペースで生産を続けていた。ライン管理の担当者は「金融危機のダメージは予想より小さくて済んだ。政府の『家電下郷』政策のおかげで、内需が強くなった」と話す。

「家電下郷」で売り上げ急増(中国・青島郊外のハイアール専門店)

 「家電下郷」とは何か。農村部に限定して、家電製品の購入額の13%を政府が補助する制度のことだ。2009年2月から4年間続けられるという。景気対策の一環だが、農村と都市の格差是正を重視する胡錦濤総書記(国家主席)・温家宝首相体制が打ち出した社会政策との見方もある。

 青島から農村部を抱える胶州市に向かい、ハイアールの専門店を訪れた。店主に取材すると、「家電下郷の恩恵を受け、売り上げは50%も増えている」と笑みを浮かべた。