秋の果物はいろいろあるが、何を隠そう私は柿に目がない。

 子供の頃、祖父の家の庭に柿の木があり、この時期になると柿を目当てにいそいそと祖父の元を訪れたものだ。

和歌山県の「紀ノ川柿 黒あま」

 木を見上げて、とびきり色がきれいで大きな柿を指差すと、祖父は手作りの道具を取り出す。それは長い竿の先端がV字にカットしてあるだけのシンプルなものだが、柿の茎を竿の切り込み部分で挟み、器用にもいでくれたものだった。

 私にとっては、「庭の木になるもの」だった柿だが、今は秋になると、全国のいろいろな地域の柿が店頭に並ぶようになった。実が柔らかめでしっとりしたもの、固めでしゃきしゃきしたもの、柿にもたくさん種類があるが、今私が一番惚れ込んでいるのが、和歌山県の紀ノ川柿「黒あま」だ。

木に成った状態でじっくり完熟させる

 「紀ノ川柿」は、和歌山県・紀ノ川の流域のみで限定栽培されている。「平核無柿」という渋柿を木からもがずに、木に成ったまま渋を取るという独特の栽培方法を取っており、固めで甘味が強いのが特徴だ。

歯ごたえは固めだけど、とっても甘い

 普通の「平核無柿」は渋いままの状態で木から収穫し、そこから渋を抜くという作業を行っている。一方、「紀ノ川柿」は次のようして渋を抜いている。

 平核無柿が色づき始める前に、脱渋効果のある固形アルコールの入ったビニール袋を一つひとつの柿に被せ、そのまま置いておく。その後、袋の下半分を切り取り、柿が色づいて完熟するのを待って収穫している。

 こうして木に成った状態でじっくり完熟させることにより、より甘味が強い実になるのだという。だが、実1つずつに袋を被せないといけないため、非常に手間がかかる。

 しかも、その中でもさらに太陽の光をいっぱい浴び、厳しい基準に合ったものだけを最高品質の「黒あま」と呼んでいる。