2009年8月18日午後1時43分――。「民主化運動の闘士」から指導者に上り詰め、韓国で最初のノーベル平和賞を受賞した金大中・元大統領が85年の生涯を終えた。

金大中元大統領に最後の別れ、韓国で国葬

金大中・元韓国大統領の国葬〔AFPBB News

 1973年8月、都内のホテルで拉致された「金大中事件」の記憶が今なお強烈なため、日本で最も知名度が高い韓国の政治家だろう。日韓関係にとって、その死は転換点となる。

 対日政策の点から注視すべき功績は、大統領就任後の1998年10月、小渕恵三首相(当時)と交わした「日韓共同宣言」である。

 それに沿って、韓国側は映画やCD、漫画といった日本の大衆文化に対する「門戸開放」を進めた。一般国民のレベルで未来志向の関係構築を目指した政策であり、現状を見れば金大中氏の打った布石が一定の成果を上げたのは間違いない。「下からの日韓新時代」が本格的に根付くか否かは、今後の両国の努力にかかっている。

ナショナリズムに走ると、冷却化する日韓関係

 1910年に韓国は日本に併合され、植民地となった。いまだに日本への警戒感が強い国民性には、無理からぬ面がある。そのため、韓国社会から締め出されてきた日本大衆文化の受け入れを、金大中氏が決断すると国内では大きな波紋を呼んだ。

 まず、1998年の第1次開放で漫画が全面解禁。その後、邦画や日本語CD、家庭用ゲーム機向けソフトなどが次々と認められるようになった。当時の韓国状況とその後の日韓関係を見れば、時代に先駆けた「英断」だったと理解できよう。

韓国の金大中元大統領が死去、85歳

史上初の南北首脳会談でノーベル平和賞〔AFPBB News

 21世紀初頭の東アジア情勢を読み解く上で、キーワードとなるのは「ナショナリズム」だ。日本で小泉純一郎元首相が高い人気を誇った要因として、就任前の自民党総裁選から拘り続けた靖国神社参拝を無視できまい。

 金大中大統領の訪朝で実現した2000年の南北首脳会談以降、韓国でも北朝鮮との融和を志向する「民族共助」が時流となった。後継者を決める2002年12月の大統領選では、左派の盧武鉉氏が当選している。

 ナショナリズムを背景とする国家指導者が登場すれば、必然的に日韓関係は冷却化してしまう。2006年4月、竹島の領有権をめぐり日本政府が周辺海域を調査しようとしたところ、韓国側が反発して緊張が一気に高まった。