4日に米商務省が発表した米6月の個人所得・個人消費は、市場ではあまり材料にならなかったが、非常に興味深い内容を含んでいた。特に、過去データが改定された結果(現時点では1995年以降についてのみ公表)、コア個人消費支出(PCE)デフレーターが6月時点で前年同月比+1.5%まで切り下がったことは、米連邦準備理事会(FRB)の今後の金融政策運営を見ていく上で重要である。

 6月の個人所得は、前月比▲1.3%。2005年1月以来の大幅な落ち込みを記録した。前月に社会保障関連の移転収入が急増していた反動が出たことが主因だが、賃金給与が減少し続けていることも見逃せない。消費に最も強く影響する要素である所得環境は、政策によって一時的にかさ上げされる月はあるものの、ベースラインとしては極めて脆弱である。6月の可処分所得も前月比▲1.3%にとどまり、実質ベースでは同▲1.8%であった。

 6月の個人消費は、前月比+0.4%。2カ月連続で増加しており、表面的には強いように見える。しかしこれは名目ベースの数字であり、ガソリン小売価格上昇などの影響を含んでいる。実質ベースでは、6月の消費は前月比▲0.1%である。3月以降、前月比プラスになった月はない(3月と4月は前月比▲0.2%、5月は同 0.0%)。

 以上の結果、6月の個人貯蓄率は4.6%になった。5月には可処分所得の一時的増加を主因に6.2%に上昇していたが、6月は反落した。改定前データで見ると、米国の個人貯蓄率は1992年頃、すなわち借金とキャピタルゲインを足場に過剰消費体質が強まっていくより前の時点で、だいたい8%前後の水準にあった。米国の家計がバランスシート調整(買いすぎ・借りすぎの調整)をこのまま継続していくと考える場合、この8%前後まで貯蓄率が上昇し安定してくることが調整一巡の目安になる。しかし、6月時点では、まだ4%台である。

 もう1つ、より重要なポイントは、冒頭で述べた、コアPCEデフレーターの水準切り下がりである。GDP統計と連動した今回の統計改定の結果、これまで前年同月比+1.8%(下3ケタまで取ると+1.849%)であった5月のコアPCEデフレーターは、同+1.6%(下3ケタまで取ると同 +1.597%)に変わった。0.25%ポイントも、物価上昇率が切り下がったことになる。そして、直近6月分は、前年同月比+1.5%(下3ケタまで取ると同+1.514%)。2003年12月以来の低水準になった。

 米連邦公開市場委員会(FOMC)内でハト派の筆頭格であり、次期FRB議長候補としても名前が挙がっているサンフランシスコ連銀イエレン総裁は、コアPCEデフレーターが来年にかけて +1%前後まで伸びを落とし、数年間は+2%を下回る水準にとどまるだろうと予想しつつ、「主要なリスクは、向こう数年間にわたってインフレ率が低すぎることであって、高すぎることではない」という警告を、6月30日の講演で発していた(「SF連銀総裁が超ハト派発言」参照)。このイエレン総裁の見立てに沿った形で、コアPCEデフレーターは今後+1%に接近していくだろうと、筆者も予想している。

 FOMCは6月24日の声明文で、景気指標改善や原油価格反発などを背景に、デフレ警戒姿勢を示す文章を完全に削除するという修正を加えた。この動きは明らかに失敗である。景気回復の息切れ感浮上と、コア物価指標の上昇率鈍化を背景に、FOMCは年内に、デフレ警戒姿勢を再度表明せざるを得なくなるのではないか。

 以上から、米6月の個人所得・個人消費は、現在の世界的な景気悪化が米家計過剰消費の巻き戻しを軸とする「構造不況」であることを再認識させるとともに、物価面でのリスクはインフレ方向ではなくデフレ方向にあることを確認するものになったと総括できる。

 FRBの利上げ時期は、まだまったく見えてきていない。少なくとも今年・来年中の利上げは予想されない。もっぱら生産関連指標の改善を足場にして、時期尚早の利上げ観測が市場で浮上しても、距離を置いて対応したい。むしろ念頭に置くべきは、景気回復力の脆弱さと、物価面の下振れリスクゆえに、FRBの超低金利の「時間軸」が強まりやすいということである。FRBが能動的に「時間軸」強化に動かない場合でも、市場の認識として、超低金利の長期化は避けられないということが、一段と明確になっていくだろう。