「100年に1度の危機」。この言葉、日本のマスコミは大好きだが、筆者は海外メディアからこの話を満足に聞いたためしがない。それは論理性も根拠も全くなく、ただのキャッチフレーズでしかないことを示している。

グリーンスパン前FRB議長、米金融危機は「100年に1度の津波」

グリーンスパン前FRB議長「100年に1度の危機」〔AFPBB News

 元々この言葉を使ったとされるのは、米連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン前議長である。2008年10月の議会証言における発言は、「We are in the midst of a once-in-a century credit tsunami」である。

 実はこの御方、この言い回しが大好きなのだ。2008年8月には一時期の生産性向上は「once-in-a-lifetime」の技術革新ブームの結果であると言明したほか、その後の投機的狂乱(まあ「バブル」ということですね)を「once-in-a-generation」と指摘している。「○○に1度」は口癖と言っていいだろう。

 もっと嫌味な言い方をしてみよう。グリーンスパン氏にとって、今回の金融危機が極めて稀な予測不可能な事態と認識されなければ、FRB議長としての自身の華やかな過去の評価が全否定されてしまうのだ。だから、いかに稀だったかを強調したいという深層心理が、「once-in-a-○○」を口にさせてしまうのか。

 グリーンスパン議長時代のFRB公表文は、「行間を読め」と言わんばかりに不明確な文章が目立ったが、この御方はこうした情緒的な表現が大好きなのであろう。

経済危機に周期や循環があるのか?

 「100年に1度」がウケるのは、今からおよそ100年前に世界大恐慌が起きているからでもある。これに対しては、「正確には80年弱前のことではないか」という反論も可能だ。しかし筆者にはむしろ、「経済危機は周期性や循環性を持っているのでしたっけ?」という疑問が湧いてくる。

 景気循環にはいろいろな説があり、在庫循環や設備投資のパターンは実際の景気予測に活用されている。しかし100年周期の話となると、やはり理論的に無理がある。「100年に1度」は、極めて希なという意味で捉えるのが大人の解釈になろう。

 例えば、2009年6月の日銀短観には「設備投資額(含む土地投資額)の足取り」というグラフが付いており、設備投資計画の年間変更パターンが見られる。

 それによると、2009年度の動きは「今までのデータ蓄積には何の意味があったのか」と思わせるぐらい、異例の姿となっている。このグラフを見るたび、我々は経験のない未知の世界にいるのかもしれないという不安に駆られ、景気回復の道程に対する不透明感を払拭することができない。