韓国が国を挙げて医療観光(メディカルツーリズム)に力を入れている。海外からの需要増とウォン安を追い風に外国人客を誘致して医療強国を目指そうというのだ。スキンケアが日本より3分の1ほど安くできるとあって女性客を当て込んだ観光ツアーも出始めた。その背景とは――。

メディカルエステに1000人の日本人客

 韓国ソウル市のほぼ真ん中を貫く大河・漢江(ハンガン)の南に位置する江南地区の繁華街。真新しい高層ビルの12階にその施設はあった。

壁には顧客の芸能人のサイン入り顔写真がずらり(アルムダウンナラ・ ビューティークリニック)

 エレベーターを降りて右手すぐの入り口を入ると、正面のカウンターに座っていた高級ホテルのレセプションのような黒スーツに身を包んだ案内女性数人が一斉に立ち上がった。「アンニョンハセヨ~(こんにちは)」とにこやかな受付係はみんな目鼻立ちが整った美人で薄化粧。大きく取った窓から日差しがさんさんと降り注ぎ、壁には有名俳優のサイン入りポートレートがずらりと掲げられている。

 ここはメディカルエステサロン、アルムダウンナラ・ビューティークリニック。メディカルエステとは、皮膚科や形成外科など医師の処方でスキンケアや美容整形を行う場所のことだ。

 受付を済ませた客は指定されたベッドの上に横たわる。担当の女性が体に毛布を掛け、頭にタオルを巻き、顔を拭いてくれる。そこへ皮膚科の専門医師がやってきて、肌の状態を診断する。シミやニキビ、傷跡などの悩み事を相談した後、担当者に施術法を指示する。その後で担当者が専用の機器や薬品で毛穴の汚れを取り除いたり、肌色を明るくしたりするのだ。

 客は圧倒的に女性だが、男性用のベッドコーナーもあり、何人もの有名韓流スターがここで施術を受けているという。

 ソウル市内に7拠点を構え、計20人の専門医と200人のスタッフを抱えるこのクリニックには2008年には1300人の外国人が訪れた。そのうち約4分の3を占める1000人は日本人客だという。

 専用の通訳がつき、日本語のパンフレットやホームページもある。約1時間15万ウォン(約1万円)のスキンケアから、まぶたや鼻などの美容整形まで客のニーズは様々。来院客の数は今年に入っても順調に伸びており、ここの施術とソウル市内の観光を組み込んだ日本からの旅行ツアーも発売されている。

最新機器で患者の体内映像をチェック(慶煕大付属病院)

 アルムダウンナラ・ビューティークリニックのようなメディカルエステサロンだけではない。仁荷(イジェ)大付属病院(仁川市)、延世(ヨンセ)セブランス江南病院、慶煕(キョンヒ)大学付属病院(いずれもソウル市)など最新の医療設備を備えた韓国国内の総合病院はいま、総合検診や歯科、韓方(漢方)などを対象に外国人客の誘致に力を入れ始めている。国がメディカルツアーの拡充に乗り出したからだ。