前回は、中国が米国中心の東アジア国際秩序に対抗し、自国中心の国際秩序を構築する野心を持って富国強兵を追求していることを述べた(前回の記事はこちら)。

 その中国が台湾を取り込んだら、東アジアの安全保障環境はどうなるだろうか。

 台湾は北東アジアと東南アジアの結節点に位置し、台湾海峡とバシー海峡という2つのチョークポイント(戦略上の要衝となる水上航路)に接している。

 台湾を中国海軍の拠点とすることができれば、中国にとって太平洋への進出が容易になり、かつ、米国海軍の南シナ海、インド洋への展開を効果的に牽制できる。極論すれば中国によって太平洋とインド洋が分断されることになってしまうのである(下の地図を参照)。

 そうなった場合、すでに経済的に中国への傾斜を強めている東南アジアのASEAN諸国は中国への従属を余儀なくされるだろう。

南シナ海を押さえ、太平洋進出もうかがう中国

 インド洋と南シナ海を結ぶマラッカ海峡に面した華人国家、シンガポールが中国海軍のアクセスを受け入れることになれば、南シナ海は出入り口(台湾とシンガポール)を中国が押さえることになる。完全に中国の「内海」とすることができるだろう。

 今年3月、米海軍音響測定船「インペッカブル」が南シナ海の公海上で調査活動中、中国艦船による妨害を受ける事件があった。

 中国の立場は、たとえ公海上であっても中国の排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)である限り、中国の法令(この場合、中国の「領海及び接続水域法」など)の規制を受けるというものである。

 中国は、「インペッカブルが中国のEEZで許可なく活動していた」(中国外交部の馬朝旭報道局長)との認識を示した。公海上の行動は国際法によってその自由が確保されているという米国側の認識と大きな違いを見せた。

 EEZにおける国家主権を強調する中国のこうした対応から考えて、「内海」と化した南シナ海での米海軍の航行は、中国により厳しく規制される恐れがある。

 かかる事態が出現した場合、インド洋での米国海軍のプレゼンス(存在感)を維持しようとするなら、西太平洋・インド洋を担当海域とする第7艦隊は、ロンボク海峡経由で航行しなければならなくなり、マラッカ経由と比べて移動に時間がかかる。インド洋で海軍力の機動的な展開が必要な場合は、ペルシア湾を中心に展開する第5艦隊が、地中海を担当する第6艦隊と協調してその任務を担うことになろう。