米国の早期「V字型」景気回復期待が雇用統計の内容などから決定的なダメージを受けたため、企業の4-6月期決算発表の開始を待たずに米国株の下落が続き、これに連動する形で、各市場でマネーのリスク回避志向が強まっている。

 7日のニューヨークダウ工業株30種平均は前日比▲161.27ドルの大幅安で、8200ドル割れ。終値は8163.60ドルで、4月28日以来の安値になった。米債券相場は堅調で、10年債利回りは一時3.44%に低下(5月29日以来の低水準)。早期利上げ観測の後退を背景に、米2年債利回りは2日以降、1%未満の水準で推移している。一方、原油WTI先物は5日続落で、終値は1バレル=62.93ドル。為替市場では、逃避通貨である円と米ドルがしっかり推移。クロス円での円高が目立ち、豪ドル/円は74円台になった。

 この日の米株式市場で材料になったのは、オバマ政権が設置した経済回復諮問会議のメンバーであるローラ・タイソン氏が、シンガポールで7日に開催されたセミナーの席上、政権の見解ではなくあくまで個人的見解だと断った上で、米国景気の現状について悲観的なコメントを発したことである。タイソン氏はその上で、景気刺激策の第2弾が必要だと主張。そうした議論は時期尚早だとしたバイデン副大統領らとは異なる見解を示した。

 タイソン氏は、オバマ政権が打ち出した7870億ドルの景気刺激策の効果は7-9月期、10-12月期になればより顕著に効果が出てくるだろうとしながらも、対策の規模は「やや小さすぎる」とした。「米国経済の実情は景気刺激策のベースになった政府の予測よりも悪い」「すでに予想よりも250万人以上多い雇用が失われている」と言う。こうした「厳しい現実」に直面すると、いまの米株式市場は意外に脆い。世界銀行による2009年経済予測大幅下方修正を材料に米国株が大幅安になった6月22日の動きが思い出される(「2カ月ぶり▲200ドル超のNYダウ」参照)。

 また、この日は米銀行協会(ABA)が1-3月期の各種延滞率(支払期日から30日以上延滞しているローン件数の比率)を発表した。ホームエクイティーローンの延滞率は3.52%で、前期の3.03%から急上昇し、1974年統計開始以来の最高水準になった。消費者ローンの延滞率は3.23%で、前期の3.22%から小幅上昇。銀行発行のクレジットカードローンの延滞率は4.75%で、過去3番目の高水準。カード債務総額に対する延滞率は6.06%で、前期の5.52%から急上昇し、過去最高になった。

 住宅価格が下落している上に、雇用情勢が一段と厳しさを増している中で、米家計がローンに頼ろうとしているものの、返済に行き詰まり、延滞率が上昇しているという、厳しい構図が浮び上がる数字である。米連邦準備理事会(FRB)が12月までの時限措置として実施しているTALF (ターム資産担保証券ローンファシリティー)の効果で、クレジットカードローンと自動車ローンについては、証券化市場ではそれなりに動きが出ており、消費者の借り入れコストは顕著に低下しているという(7月8日 フィナンシャル・タイムズ・アジア版)。だが、雇用情勢悪化という、家計にとっての住宅バブル崩壊に続く第2の打撃は甚大。ABAのエコノミストは今回の結果について、「延滞が増えている主因は雇用喪失だ」「人々が仕事を失ってしまうと、借金を払えなくなる」とコメントした。

 米国経済のメインエンジンは個人消費だが、雇用悪化が進むと、このエンジンの推進力は着実に低下する。また、雇用悪化で銀行のリテール貸し付けの焦げ付きが予想を上回って増加すると、金融システム不安が再燃しやすくなる。雇用悪化とローン延滞の「負の相互作用」が懸念されるところである。

 住宅とクレジットのバブルが連鎖的に崩壊したことで、米国経済が負った傷は、非常に深い。「持久戦」狙いのオバマ政権のこれまでの政策対応では、事態の安定化までで精一杯という印象が強い。長期金利は内外で低下余地模索を続けるだろう。筆者のみる10年物国債利回り低下の当面のメドは、日本では1%、米国やユーロ圏では3%である。