中部の工作機械メーカー各社が、相次ぎ製品価格の値上げを行っている。オークマは4月から米国向け工作機械製品の値上げを実施。ヤマザキマザックも26日の新規受注分から、米国向けの価格を一律5%値上げした。

 また森精機製作所は、米国と欧州向けの価格を3~5%引き上げる方針。各社とも、一時1ドル=80円を切った昨年8月の超円高突入から3回目の値上げ。受注環境の好転を追い風に、円高や原材料の高騰を吸収するのが狙いだ。

 値上げを繰り返す中部の工作機メーカーの「自信」と「苦悩」を探った。

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 「1ドル=80円は厳しい。米国、中国では、少し売り上げが落ちても、値上げをしなければならないだろう」。ヤマザキマザックの山崎照幸会長はこう話し、量的拡大よりも収益回復を優先する姿勢を強調した。

 実際、足元の受注環境は良好だ。ヤマザキマザックは2大需要地である米国と中国で増産対応に追われている。米国では、日系メーカーが得意とする大型機の大口需要家である航空機や自動車業界などからの受注が回復。中国でも「現地のメーカーさんが一番買いたいのは日本製だ」(森雅彦・森精機社長)と自信を見せる。値上げの背景には、高級機中心に“メイド・イン・ジャパン”の競争力は依然高い、という自負を垣間見ることができる。

 しかし、値上げの最大の理由は、収益改善が道半ば、という懐具合だ。

 株式を公開している森精機とオークマの前3月期の業績は苦悩に満ちていた。森精機の前3月期の売上高は2010年3月期比8割増の1204億円、オークマの売上高も7割増の1009億円と文字通りの“V字回復”。しかし、経常利益は森精機が5億6600万円、オークマが13億3100万円にとどまった。

 過去最高の業績を上げた2008年3月期と比べれば、売上高は5~6割まで回復しているが、経常利益の水準は当時の1割以下。工場集約や合理化など損益分岐点を引き下げる必死の経営努力も、急激な円高で吹き飛んでしまった。

 各社とも、収益構造の改革を急ピッチで進めている。森精機は今秋から、提携先のギルデマイスター社(DMG)のドイツ工場に一部製品の生産を委託するほか、来年稼働の米国の新工場でDMGの機械を受託生産する。

 オークマも台湾工場を来年稼働させる。台湾で製品の最終組み立てを行い、日本以外の海外に供給する計画だ。ヤマザキマザックも、海外生産拠点に追加投資し、生産能力を引き上げる。

 海外販売に占める海外生産比率を引き上げることで、為替変動による収益への影響を最小限に食い止める考えだ。

 ただ、中部の工作機メーカーは海外販売比率が7割前後にのぼる一方、生産の大半を日本に依存している。これが「苦悩」の大きな要因といえる。

 超円高時代に対応した収益構造にどうスピーディーに改革するか。断続的な値上げの行間を読めば、「改革に要する時間が欲しい」という切実な思いが透けてみえる。

(「中部経済新聞」 2011年6月28日付紙面より)