社長交代があると、まずは新社長が全国の支店や工場を回るというのが当然のようになってきている。新社長の顔見せだ。

 ただの顔見せで終わっているところも少なくない。ちょっと顔を見せて、「頑張ってね」くらい声をかけて早々に立ち去っていく。「社長が来てくれたことで社員は活気づきます」と広報レベルでは説明したりするが、果たして、そうなのだろうか。

社長の権威で社員をやる気にさせられるのか?

 社長が「神様」だった時代には、それが通用したかもしれない。尊敬し、あこがれの対象としている社長と会えば、確かに社員は活気づくはずだ。社長を「神様」にしようとしていた日本的経営の中では通用したのかもしれない。

 ただし、そんな「神様」は現場を回ったりしない。めったに姿を見せないから「神様」でいられたりもする。しかも、そんなカリスマ経営者はめったにいなくなった。

 社長が来るとなると、社員総出でオフィスを掃除するなんて光景も珍しくない。いいところを見せたい、のだ。

 よほどの用事がなければ社長の訪問時間には廊下に出るなと言われた、なんて話も聞いたことがある。社員がウロウロしていては社長が歩くのに邪魔になるということなのだろう。社長の視察に邪魔になるので客の入店を制限した、という店舗の話も耳にしたことがある。

 どれも社長のご機嫌とりでしかない。社長を“よいしょ”するセレモニーにすぎない。せっかく社長が現場にやって来ながら、本当の現場を見ないで帰ってしまうことになる。何のための現場視察か分からない。

 そんな現場の仕事を邪魔するような社長訪問を社員が喜ぶわけがない。迷惑にしか思わないはずだ。

 だから、社長の現場訪問は社員の「やる気」にもつながらない。

 そこで、ただ訪問するのではなく、「現場社員との懇親会」を開いている企業もある。社長が現場訪問したときに、現場スタッフの何人かと昼食や夕食を共にするわけだ。社長は社員の生の意見を聞き、社員は感激してやる気も出る、ということなのだろう。