「1ドル=80円の為替水準は、日本のモノづくりの限界を超えている」。6月10日、東京で2012年3月期の業績見通しを発表したトヨタ自動車の小澤哲副社長は、国内生産の「現状水準維持」について否定的な見解を示した。トヨタが発表した2011年度の国内生産計画は303万台。前期の300万台を上回る計画だ。トヨタの取引先の多くが採算水準としてきた300万台はぎりぎり維持する。ただ今後、東日本大震災と超円高のダブルショックが引き金になり、トヨタの国内生産300万台体制は揺らぎかねない。

 トヨタは円高に伴い、海外で販売する輸出車両の値上げに踏み切っている。一方、韓国やドイツなど海外の競合メーカーは、値ごろ感を全面に打ち出した販売戦略を展開している。トヨタにとって、不利な状況だ。「日本のモノづくりにとって、円高が重い負担になっている」(小澤副社長)。東日本大震災から3カ月。トヨタの国内生産の根底が揺れ始めた。

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 トヨタ自動車の5月国内受注台数は、東日本大震災の影響で新車供給が滞っているにもかかわらず前年比8割にのぼった。5月以前の受注残も積み重なっている。その多くが納車待ちの状況。受注残の解消に向けたばん回生産が求められる。

 トヨタのばん回生産は下期に集中する見通しだ。2011年度の国内生産計画は303万台。サプライヤーに内示している上期の生産計画は120万台弱で、下期は180万台規模を生産する方針。足元の国内の1日当たりの生産台数は1万1000台の水準だが、年末にかけ1万4000台の水準まで引き上げる見込みだ。

 下期の増産対応については、震災の影響を受けた3~5月の10日間・20直分の休日振り替えや、人員増によるタクトタイム(作業者ひとりが1台の車両に携わる時間)の短縮などを計画している。「トヨタの生産計画は保守的に見積もりすぎなのではないか」。下期の計画以上のばん回生産に期待を寄せるサプライヤーは多い。

 愛知県内の駆動系部品メーカーは、足元で約2000人の非正規社員を抱えているが、雇用契約を打ち切らずに下期の増産体制に備える。また、ある内装部品メーカー首脳は「生産変動に即座に対応できるよう、製造現場の多能工化を進める」と強調する。短期的な急回復へ向け、サプライヤー各社は対応を急いでいる。