「新技術で成功している中小企業の社長さんなんだけど、人柄が独特で面白い。一度会いに行ってみたら」と知り合いが教えてくれた。

 連絡して、行ってみた。

 会社の名前は日本イルミネーションシステム、横浜市中区にある。関内駅から市役所とは反対側に1、2分歩いたところの8階建てのビルの4階だ。

オフィスの真ん中にコンロにかかった中華鍋が

 ドアを開ける。

 壁の色が目に飛びこんでくる。3メートルくらいの三角形の赤や緑や青や黄色のプラスチックが壁に貼られている。

 ニャー、ニャーと猫の鳴き声がする。デスク横のテーブルに簡易コンロがあり中華鍋が載っている。モヒカン刈りの男が携帯電話を手に大声でしゃべっている。

 「バカ、テメー、やってみなきゃわかんねーだろっていったんだよ、ガッハッハッハッ」

 〈ヘンな会社だぞ〉と私は思った。

 社員の女性に会社の中を見せてもらった。広さは小学校の教室2つ分くらい。社長室はない。会議室が2つ。奥に工作用の机があり、工具があり、材料の棚があり、自転車があり、ベッドがあった。もの作りに夢中になると帰らなくなる社長専用のものなのだという。

 壁紙は社長の好み。猫は経理の女性が今朝通勤途中で拾ってきた。中華鍋は社長が昼食を作るためにある。そして、大声でしゃべっていたモヒカン刈りの男が社長だという。原田実、49歳。

曲げても切っても発光する無機ELを開発

 原田は「無機EL(エレクトロルミネッセンス)」を改良した。無機ELは電圧を加えると自ら発光する素材で、工事現場で見かける標識などに用いられている。

 彼が改良した無機ELは、0.3ミリの極薄発光シートで、大きくすることができた。たとえば、福岡ドームに設置された縦3メートル横9メートルの菓子メーカーの電飾看板として利用されている。

 さらに最近、無機ELの新発光体技術「D-EL」を開発した。厚さ0.2ミリ、曲げても、切って横につないでも発光しつづける。インバーターはいらない。通常の電源で良いので、どんな場所でも発光するシートを貼りつけることができる。

 TV番組の「ワールドビジネスサテライト」で紹介され、「週刊ダイヤモンド」でもとりあげられた。官公庁や大企業から使いたいという話がいくつもきている。