(英エコノミスト誌 2009年5月9日号)
インフレは悪いが、デフレはもっと悪い。
カントリーウエスタンの調べに乗せ、甘い声で風刺メッセージを歌う異色のシンガー、マール・ハザード氏は、金融政策を巡る混乱を誰よりも的確に描写している。
ジンバブエのインフレ率は2億%超とされる・・・〔AFPBB News〕
「インフレかデフレか?」と同氏は歌い上げる。「分かっているなら教えてほしい。我々はジンバブエになるのか、それとも日本になるのか?」
一体どうしたら、1930年代以来最悪となる米国の景気後退によるデフレ圧力と、金利を事実上ゼロまで引き下げ、バランスシートを急激に膨らませた米連邦準備理事会(FRB)の積極的な政策対応の両方から身を守れるのだろうか。
ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン氏は5月4日、日本式のデフレが迫っていると警告した。一方、FRBの歴史の研究で名高いアラン・メルツァー氏は、1970年代に起きたインフレの再来を予想している。両氏の主張は、奇しくもニューヨーク・タイムズ紙の同じ日の同じ面に掲載された。
どちらの懸念にも一理ある。ただし、インフレはまだ先の話であるうえ、抑制が可能だ。一方、デフレは差し迫っており、致命的な結果を招く。
負債に足を引っ張られる
デフレの懸念は、米国で3月の消費者物価指数が前年同月比で0.4%低下したことから来るものではない。確かにこれほどの落ち込みは1955年以来だが、これはエネルギー価格の急落による一時的な結果にすぎない。食品とエネルギーを除いたコア指数では、前年同月比で1.8%上昇した。
むしろ懸念すべきは、真のデフレの特徴である持続的な物価の下落である。失業率が9%に迫る中で、GDP(国内総生産)は潜在GDPを大きく下回り、1982年以来の大きな乖離となっている。このギャップはさらに拡大する可能性が高い。
住宅価格は米国のインフレ指標に含まれていないが、住宅価格の下落により家計は負債の圧縮を迫られ、これが数年間にわたって経済成長を妨げる恐れがある。労働者たちが少ない仕事を奪い合い、企業が売り上げを確保するために安値を競えば、賃金や物価には下降圧力がかかる。
今のところ、インフレ期待値は安定している。こうした心理そのものは、デフレの抑止力として歓迎できる。しかし、賃金の凍結や賃下げがたちまち人々の心理を変えてしまうかもしれない。
ある世論調査では、回答者の3分の1以上が、自分自身あるいは家族が賃金削減や労働時間の短縮に見舞われたと答えている。

今年第1四半期の米国の雇用コスト指数は前年同期比2.1%の上昇にとどまり、統計が開始された1982年以降で最も低い伸びとなった(図参照)。前回デフレが懸念された2003年でも、総人件費は4%近く上昇している。
これは問題なのだろうか。19世紀末のように、生産性の向上が原因で物価が下がっているのであれば、それは経済の崩壊ではなく、成長の表れだ。
しかし現在、デフレはその類の良性のデフレではなく、1930年代に起きたような悪性のデフレになる可能性が高い。需要が低迷し、家計や企業が負債を負っているためだ。
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