米自動車ビッグ3の一角であるクライスラーがついに破産を申請した。米経済全体への悪影響が懸念される中、オバマ大統領は1~2カ月という短期間で再建できると楽観する。その裏には大口債権者である大手銀行を味方に引きずり込んだ自信があり、金融機関側には政府に追従するしかない弱みがある。

水責め容認の法解釈は「間違い」、オバマ大統領

政権批判を回避できるか?〔AFPBB News

 「一部の投機筋が多くのリターンを得るために合意に抵抗したことは許し難い」。4月30日正午、ガイトナー財務長官ら閣僚をずらりと従えてホワイトハウスでカメラの前に立ったオバマ大統領は、債権放棄を拒んでクライスラーを破産に追い込んだヘッジファンドらを厳しく非難した。

 その一方で、大統領は大手銀行団を「比類なき犠牲」を払ったと評価。「強い自動車メーカーとして再生する」と述べ、クライスラーの再建を国民に約束した。

 オバマ大統領は自動車産業を「米製造業のバックボーン(背骨)」と形容する。裾野が広く、雇用への影響は大きい。創業以来83年の長い歴史を持つクライスラーが清算されれば、数百社の部品メーカーが倒産し、数十万人が失業すると言われる。クライスラー車を扱うディーラーは全米で3200あり、14万人の雇用を支える。

ヘッジファンドをスケープゴートに

 クライスラーの事実上の経営破綻による影響は経済にとどまらず、就任100日を迎えたばかりのオバマ政権にも及びかねない。そこで、ホワイトハウスと民主党は、ヘッジファンドをスケープゴートとしたのだ。同党自動車族の首領・ディンゲル下院議員(ミシガン州)は彼らを「ハゲタカ」とまで呼んでいる。

 昨年12月、当時のブッシュ大統領は極度の販売不振で資金繰りに窮したゼネラル・モーターズ(GM)とクライスラーに174億ドルの低利融資を行うと発表。追加支援を求めてきた両社に対し、オバマ大統領は今年3月末「外国メーカーと競合して長期的に企業として存続できる」ための抜本的なリストラを条件として突きつけた。

クライスラー債務圧縮で債権者団と合意、破たん回避は不透明

伊フィアットとの提携で再生目指す(ミシガン州のクライスラー本社)〔AFPBB News

 クライスラーに対しては、イタリアの自動車大手フィアットとの資本提携と大幅な債務削減に向けた関係者との協議を4月末までにまとめるよう求めた。大統領は、法的整理も辞さない強い構えで、株主、債権者、労働組合に譲歩を迫った。このうち最も難航したのは、69億ドルの有担保債務の削減交渉だった。債権者は46の銀行に加え、手ごわいオッペンハイマー・ファンズなど3つのヘッジファンドも含まれていた。

 ホワイトハウスは69億ドルを20億ドルまで減らす71%債権放棄案を、交渉の取りまとめ役となる米銀JPモルガン・チェースに打診。交渉が大詰めを迎えていた4月27日深夜、同行とシティグループ、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスの4金融機関は要請を受け入れることを決めた。